したわれわれは、中な標し津つ付近から別べ海か村の中な春別へほとんど直線コースを取って進んだ。時速二四キロ余。踏みくだかれた処女雪がキャタピラーの後に散乱して白いしぶきを上げている。雪面のデコボコに応じて、雪上車は小舟のようにピッチングとローリングをくりかえす。灰色に曇った空と灰色の雪におおわれた根釧原野。そのあいだに雑木林の黒ずんだ地平線がなかったら、ここは見わたす限り灰色の世界である。ときどき通り過ぎるシラカンバやハンノキの林も、本州の高原に見るような甘さはまったくない。すべてが荒涼としている。なにもかも凍りついている。 「日本にもこんなところがあったのか」来た一隊員が嘆息する。「北海道的」という表現をこえて、これは最も「非日本的」な景観だ。秘境とか、絶景とか、日本の風景をあらわすどんなことばも、ここにはあてはまらない。白鳥が二羽だまって低く飛んでいく。純白の大きなこの鳥さえも、美しいおとぎ話よりは、ここに生きるものの生活の厳しさを思わせる。かしゆんべつ本当の原野とは、こういうものなのだ。非情な自然である。この非情な原野に、やがてポツポツと人家が見えてくる。開拓農家だ。それぞれが遠く離れた一軒家だから、視界に三戸以上もがはいってくることはほとんどない。畜舎も住家も戸を固くしめている。夕暮れが迫るころ、開拓者の家々は窓にランプの火が映る。これらの開拓者は「既存農家」とよばれ、同じ開拓者でも新しいパイロット・ファー厶とは区別されている。中春別の市街からパイロット・ファー厶の床と丹た第二地区にあるパイロット小学校まで九キロ。その中にパイ本州から― こんべかつい ロット・ファー厶の農家が、これも既存の開拓農家と同様、たがいに遠く離れてたっている。暗い地平線に浮かぶそのシルエットはブロック建築の住宅と牛舎である。電灯も明るくともっている。パイロット・ファームの電灯と既存開拓農家のランプと……。そこには、どんな生活があるだろうか。その「パイオニア精神」は、どんなであろうか。199第2節 農業近代化の始動
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