借金の実態を知らせていない経営主が多かった。 「これ以上借金を続けたら、経営できなくなる。負債整理資金は税金だから、借りるなら、再建して、返してもらわないと困る」。あえて厳しく言った。そして、全戸に家計簿を付けさせた。「あいつは、なまいきだ」という陰口も聞いた。しかし、五郎は離農だけは、食い止めたかった。無駄な家計費切る家計簿を付けさせると、平均月三十万~五十万円も使っていた。これを、生活改良普及員に見てもらった。そして、無駄な家計費をばっさり切り落とした。生活改良普及員が見積もった金額は、二十万円そこそこ。「これで、十分生活できる」とのアドバイスも受けた。五郎は、この生活改良普及員が見積もった家計費しか、農協として出さないことを告げた。そして、自家用野菜の栽培などを説いた。 朝四時から訪問も農業改良普及員と五郎は、毎月農家を訪問した。草地の状態、牛の状態をみながら、はっぱをかける。「一人で、朝四時ごろから農家を訪問したことも、この四年半で数えきれない」。毎月の経営内容は、組勘では分かりにくい。そこで五郎は、月別の収支を明確にする、独自の「農業経営収支計画実績対比表」を作った。営農計画と月別の収支実績が一目で分かるようにした。計画通りいっていない農家には、原因を尋ね、計画達成を促す。しかし、計画通り乳量を伸ばせる農家は少ない。そこで五郎は、五十七年、一台のパソコンを購入した。飼料分析と設計のシステムも買った。七十万円近くかかった。自費である。「なんでそこまでやるの」と妻がいう。「でも、農家に厳しいことを言うなら、自分も努力しないとだめだ」と思う。十九戸のデータを入れるため、毎月、朝と晩に、頭数、乳量、体重、えさの給与量を調査していった。そして、コンピューターに打ち込んだ。自ら厳しい努力237第4節 国際化農政期の北海道農業
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