どんな職業だって、悩みや苦労はつきまとう。「農業だけが、特別苦しいということはないと思う」。むしろ、広い土地と牛、そして自然。都会育ちの春子には、何物にも代えがたかった。「一生懸命やれば、借金だって返せる」四年間、無我夢中で働いてきた。子供も、義母のおかげで、病気もせずすくすくと育った。「月十九万円。よく四年間もやってこれた」と思う。五十九年、一頭当たり乳量が五十六年の四千キロ台から、六千三百キロにまで伸びていた。経済余剰(組勘黒字)を、三百五十万円も出した。償還金三百万円を支払っても、五十万円の余裕が出た。「結婚して以来初めてだ」と夫の顔がくずれた。「やっとここまできた」と思った。義父母も頭下げそして、今年、待望の負債整理農家からの〝卒業〟を農協から認められた。夫は「ありがとう」といった。義父母も、「済まなかったな」と、頭を下げてくれた。四月、長男は、入学式を迎えた。新しい服とズボンを買って着せた。長女にもスカートを買ってやった。はしゃぎ回る姿を見て、春子は初めて泣いた。三千八十五戸の酪農民が、負債整理対策事業に入ったのが四年前の五十六年だった。五十九年度までの四年間に、千百戸が再建され、同対策事業を〝卒業〟した。利子補給(軽減)、長期償還という「特典」があったにせよ、再建までの道のりは平たんではなかった。乳量を上げるため、日夜、飼養管理に励んだ経営主。 ―。 家計費を削ることに、四苦八苦してきた妻。そして、「対策農家」の名に耐え、協力し合った家族。経営再建までには、いろんな人間ドラマがあった。負債農家を一戸でも多く助けようと、嫌われ役を買って出た若い農協担当者。「いくら経費削減を訴えても聞記者の視点〔(一一月一四日付記事〕やる気の向こうに光 欠かせぬ人間同士の信頼負債は人間問題だ編者注)24113 第4節 国際化農政期の北海道農業
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