いてもらえない」という、悩みの中で、一戸一戸説得に回った営農相談課長。農協と組合員という関係だけでは片付けられない、人間同士のぶつかり合いがあった。一連のシリーズを通して、われわれ負債問題取材班が見てきたのは、負債問題イコール人間問題だ、というドラマだった。負債問題からくる、やる気喪失、家庭不和、農協との対立は、人間不信への第一歩だったし、負債地獄からの脱却には、失われた信頼関係の再構築が不可欠だった。政策の失敗も一因なるほど、負債の原因には、政策の失敗も見逃せない。規模拡大を呼びかけながら、一方で生乳換算二百五十万トンもの乳製品輸入。連続的な乳価据え置き。需給ギャップは結局、酪農民が五十四年からの計画生産という形でしりぬぐいさせられた。負債に陥った酪農家の大半は、こうした、国内酪農民を無視した、農政不在のあおりを受け、つまづいた事実は、隠せない。こうした政策の矛盾を批判し、是正を求めていくことは、酪農民のみならず、農協、連合会、道行政の「役割」ともいえる。しかし、負債問題の裏側に潜む課題は、政策論議だけでは片付けられないものもあった。経営体としての、農家の経営能力、農協の融資姿勢だ。負債農家の中には、七千万円の借金を抱えているにもかかわらず、隣の家が新車を買ったのをまねて、高級車を求めた農家もあった。組勘赤字を承知で、月五十万円の家計費を使っている農家もいた。こうした農家に共通するのは、一頭当たり乳量が低く、乳牛事故率も高く、経営主としての資格に、疑問符が付くものだった。「一億円の生命保険をかけているから、死ねば借金を返せる」と、笑えない冗談すら聞かれた。また、農協では、火に油を注ぐかのように融資を続け れた経営姿勢も一部にあった。こうした農協のあり方は、てきた例もある。農協理事者たちの人気取り、情けに流苦しい農家を助けるものではなく、むしろ離農を早めるものとの声も。しかも、離農の時、資産評価額よりも安242第2章 農業
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