2 疲弊する道南漁村た。漁村の過剰人口は単に引揚者という外部的量的人口増大だけではない。戦前の北洋漁業を中心とした広範な労働市場を失つたことが北海道とくに道南の漁業労働者群をまつたく失業的状態においこむと共に、道南漁業労働市場をますます狭隘化しながら母村に停滞的に沈澱させた。戦後、函館を中心とした日やとい労働者の増大はこの失業者群の街頭へあふれでたものにほかならない。4.生産性の低下と資源の消粍(以上のべてきたように沿岸漁場への大型漁船の侵入に加えて沿岸内部の相対的漁船の増大はますます沿岸漁業の生産性をひくめるとともに、濫獲による資源の消粍()をいちぢるしくふかくした。一例をあげると、根室地方の蟹漁業のように、その漁船数は、昭和一一年に八七隻、昭和二六年に一〇八隻になつている。昭和一一年の八七隻は南千島の歯舞、色丹、 泊、留夜別、紗那などをふくめての合計と後者はそれをふくまない現在の地域に集中されたものの数である。耗) 耗 このように戦前にくらべて戦後は狭い地域に多数が集中するという状態を示している。このような漁船の相対的過剰によつて地域内の資源が急速に枯渇することは当然であり、漁業生産力の発展の阻止と漁業経営体の縮少再生産となつてあらわれてくる。すなわち、根室地方の一隻あたりの蟹漁獲高は、昭和二四年度は一六隻で三九、七八六貫であるに対し翌二五年度(一一四隻)には二〇、四四七貫と減少している。道南漁業がいかに緊急な対策を必要としているかは、この漁業がいまどの段階に到達しているかを詳細には握することによつて理解されるのであろう。本節において第2節 道南漁業の現段階北海道開発局局長官房開発調査課『道南地域漁業構造調査報告』一九五九年(北海道立図書館所蔵)357第1節 漁業制度改革と戦後復興
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