北海道現代史 資料編2(産業・経済)
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は、この意味において、道南漁業の再生産の構造をもう少しくわしく整理してみることとする。自然条件の変化明治以来、道南の漁業はニシン、イワシ、イカとその漁獲魚種の構成を変えてきた。そのたびに主たる漁業地をかえ、漁業資本家、漁業経営主をかえ、道南の海に明暗の影を深く刻みつけてきた。それと同時に、道南漁業の重みも大きな変動を記録したが、結局あとに残つたものは辛うじて単純再生産を続ける低生産性の多数漁家層であつた。今日なお自然条件の変化は続いている。対馬暖流は消長の変化を繰返しながらもその影響力は次第に強まり、道南海域の水温は次第に高まつている。ニシンが再び南下する希望は次第に薄くなる一方、スルメイカもまた回遊北限が次第に遠ざかるとともに、しばしば沖合を通過するようになり、従来のような定置または沿岸小漁船による漁獲方式から、かなり魚群を追跡しうるような大型船による漁獲方式が要請されるにいたつている。しかしながら、家族労働によるスルメ加工方式と結びついて、その大型化には困難ないし限界があり、その打開が要望される。自然条件の変化はスケソウ、ホツケなどの多獲魚にも及び、その漁況を変化させているが、まだ具体的に何をしたらよいかを明確に理解される段階にはいたつていない。しかしながら、激しい自然条件のなかで、不利な流通ないし市場条件のもとに経営を続けるためには、自然に勝ち、それらの流通市場条件を克服し得るような高能率な漁業方式が必要であることは間違いないところである。(2)     自然条件の影響を受け易い未発達の漁村には、また濃密魚群の沿岸来集時に過剰な労働力を吸収せざるを得なかつた。それは少数の網元のもとに雇われた季節的労働者であつたが、元来は漁業小生産者であり、やがて定住したものは漁家となつた。明治末のニシン不漁から大正末のニシン消滅の頃には渡島西部から檜山地方にかけて道南漁民層の分解第4章 水産業(1) 358

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