い事であつた。勿論本道に於ける炭鉱地区は爆撃に依る戦災はこうむらず、其住宅についての喪失は全然見られなかつたが、炭鉱労務者の主たる構成をなしていた第三国人の使用は不可能となり、此等第三国人の退山は、炭鉱労働力の激減をきたし、生産の減退の第一原因をなしたのである。労働力の充実こそ、先ず炭鉱復興の第一要件である事は共に認められた事実であつた。此為労務者の不足にはあらゆる対策が講ぜられるに致つた。次に戦敗による重大な影響の一つは国民の戦争による緊張し切つた思想の弛緩による労働者の生産意欲の喪失であり、生産能率の著しい低下であつた。此低下は一つは敗戦に依る食糧、衣服主要生活必需物資の不足が生産意欲に悪影響を与えた事に基づくものであるが、居住条件の戦時中に於ける荒廃と終戦に依り、第三国人退山に際しての破壊等が大きな原因をなした事は明であり、居住条件の整備は更に労働法の実施と共に要請せられた。以上の理由に依り、終戦後激減した出炭を回復せん為に、炭鉱に於ても二十一年度当初より逸早く住宅建設の重要性を認め約五千余戸の建設計画を立てて、資材資金に対して特に対策をとつて来たのであるが、戦災に依る庶民住宅復旧と、更に占領軍進駐に伴う諸設営資材の調達は炭住に対する建設資材の入手を阻止のやむなきに致り、炭鉱当事者の努力にも拘らず、九月に至つて其四%も完成し得ない悲しむべき状態にあつた事は炭鉱建設当事者の良く知つて居る所であつた。今当時の石炭生産の現状を見れば八月の六八九、六九五屯より急激に減産を見るに至り、十一月には一五〇、六二四瓲の最低を示し、こゝを限度として上昇するに至つたのではあるが、未だ月産四〇万、五〇万瓲台を低迷し、其生産は、国民生活の安定日本経済再建の要請に応える出炭確保には遙に及ばなかつたのである。他方労務者に於ては八月八四、七六一名より十二月の四九、七三六名に低下、以降上昇に向つたのではあるが、然し其収容力の点に於て充分完備して居らず、労務者の定着を期待するには充分でなかつた為能率が極めて悪いのであつた。776 第8章 鉱業・エネルギー【鉱業】
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