これらの教科書はアイヌ民族の存在をどのように記述し、また、そこにどのような問題点が内在しているのだろうか。その分析に先立って、まず各教科書の〈アイヌ民族〉記述の全容を提示しておこう。提示に当たっては当該記述と関連する前後の文章も合わせて引用した。なお、以下の〈アイヌ民族〉記述は教科書センター用見本から抽出した。三 「新社会科教科書」の〈アイヌ民族〉記述の分析それでは〈アイヌ民族〉記述の分析に移ろう。それに際しては、教科書別の〈アイヌ民族〉記述の有無など三つの視点を設定し、それぞれ一九八九年度版の教科書との比較もまじえながら分析を進めていくこととする。第一に、教科書別の〈アイヌ民族〉記述の有無である。「新社会科教科書」は前述の通り八社から発行されている。そのうち、〈アイヌ民族〉記述が存在するのは東京書籍、大阪書籍、中教出版、教育出版、帝国書院の五社〈中略〉(1)〈アイヌ民族〉記述の有無のそれで、残りの日本書籍、学校図書、光村図書の三社のそれからは当該記述が欠落している(表二〈略〉参照)。日本書籍は一九八九年度版の『小学社会』(六上)に近世アイヌ史の充実した記述があっただけに非常に惜しまれる。この三年間に〈アイヌ民族〉記述を削除するほどの歴史的な発見があったのだろうか。 〈アイヌ民族〉記述の有無は出版社の教科書編集の姿勢と深く関わっている。文部省集録『平成四年度以降使用教科書編集趣意書』(社会・地図編)にはそれが実によく表れている。例えば、東京書籍は『新しい社会』の「編集上の留意点」(六年)のひとつとして、こう述べている。「特に、人間尊重の立場から、人権、差別問題に留意し、社会事象を正しく認識できるように努めました」。教育出版の『新版社会』も同じく、「『人間尊重(人権尊重・人権優先)』を柱とした社会科の本質を一層追究し」たと述べている。もっとも、日本書籍の『わたしたちの小学社会』のそ れも「人間の尊厳を正面にすえ、人権感覚と主権者とし1045
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