(2)〈アイヌ民族〉記述の系統性ての意識が育つ教科書をめざし」たと述べている。教科書の編集方針とその記述内容が不一致であるといってよい。アイヌ民族の問題をとりあげることは小学生の人権感覚を磨くことにつながらないのであろうか。なお、学校図書の『小学校社会』は新潟県で、また、光村図書の『社会』は神奈川県でそれぞれ第二位の採択数である。日本書籍の『わたしたちの小学社会』の採択県などは不明である。アイヌ民族は日本の先住民族である。教科書の中でそれに関する記述が欠落していることは、子どもたちにアイヌ民族のことは学習する価値がないという印象を与えるとともに、その存在自体の否定につながっていく危険性を内包している。第二に、〈アイヌ民族〉記述の系統性である。分析の対象はそれを取り上げた東京書籍、大阪書籍、中教出版など五社の教科書である。これらの教科書の中で〈アイヌ民族〉記述は次の二単元中に三項目が登場する。ひとつは歴史単元で、近世初期のシャクシャイン戦争と近代のアイヌ民族の棄き民み化問題である。もうひとつは政治単元で、基本的人権が侵害されている事例として部落差別、障害者差別などと並んでアイヌ民族差別を掲げている。シャクシャイン戦争は『新版社会』(教育出版・G)、基本的人権の侵害の例示は『小学校の社会科』(中教出版・F)がそれぞれとりあげている。アイヌ民族の棄民化問題はそれぞれ濃淡はあるが、『新しい社会』(東京書籍・C)、『小学社会』(大阪書籍・D)などの各教科書がとりあげている(表二〈略〉参照)。だが、これらの〈アイヌ民族〉記述は歴史単元が中心 ん ら始まるが、やはり明治中期で終わっている。その後、で、それも大半が明治中期までのアイヌ史の記述にとどまっている。『新版社会』(教育出版)の記述にしても、他の教科書ではとりあげていないシャクシャイン戦争か今日にいたる百年間の歴史は空白のままになっている。一九二○~三○年代には近代国家のアイヌ民族支配に抗して、その自立をめざす運動の高まりがあったはずであ1046第2部 教育 第9章 アイヌと教育
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