か町〕)を拠点に、松ま前藩の収奪に抵抗しておきた近世最大のアイヌ民族の戦争である。シャクシャインはシブチャリの首長で、この戦争の指導者である。シャクシャイン戦争は一九八九年度版の『改訂小学社会』(六上・教育出版)では「アイヌモシリ」という独立した項でとりあげていたが、一九九二年度版の『新版社会』(教育出版・G)では近世沖縄の記述と一体となった。このことは日本列島の北と南を関連づけて考える視点を提供するもので、今後の望ましい記述のあり方を示唆しているといえよう。また、記述内容もこれまで曖昧であったシャクシャインの指導者としての役割や戦争の原因が明確になったこともそれなりに評価できよう。だが、少なからず問題もある。それは「アイヌモシリ」という小学校用教科書の中の唯一のアイヌ語を削除した点である。これによって子どもたちはアイヌ語を通して、その生活・文化に触れる機会を失ってしまったのである。次に近代のアイヌ民族の棄民化問題をとりあげよう。この項はこれまでアイヌ民族の側から多くの批判をうけつまえはんた箇所であるが、『新しい社会』(東京書籍・C)はこうした批判に応える形で、アイヌ史研究の成果を反映した新しい記述のモデルを提示した。一九八九年度版の『新訂新しい社会』(六下)では「開たくが進むにつれて、以前から北海道に住んでいたアイヌの人々は、仕事や土地を失う結果になりました」という曖昧な記述から一変し、アイヌ民族の棄民化の原因を明確にするとともに、近代のアイヌ政策の具体例を挙げながら、それが差別を強化する役割を果たしたことを記述している。これまでの小学校用社会科教科書はもとより、中学校用のそれにも例がない画期的な記述である。ただ、「土地も手ばなすようになっていきました」という説明は史実を正しく伝えていない。これではあたかもアイヌ民族の自発性に基づくような印象を与える。これは北海道における近代的土地所有制度の確立過程で、アイヌ民族が生活手段を確保していた土地を「無む主し之の地ち」として認定し、強制的に「官かう有地」に編入した結果なのである。こうした一定の評価が可能な教科書が出現した一方で、 ゅ んゆ1048第2部 教育 第9章 アイヌと教育
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