これまでより質・量とも大幅に後退した教科書もある。『小学社会』(大阪書籍・D)がそれである。一九八九年度版の『小学社会』六上(大阪書籍)には、「北海道旧土人保護法」(一八九九年)を念頭に置いた「明治の末には、税金のすえおきや農具の支給等による保護がはかられましたが、貧しい生活からぬけ出すことができませんでした」という記述があったが、今回の教科書では削除になった。これに加えて、一九八九年度版でも記述している「アイヌの人々も平民とされました」という説明も不十分である。明治国家成立後アイヌ民族を「平民」に編入したことは事実であるが、この説明だけでは「旧きう土ど人じ」という蔑べ称を付与し、他の「平民」と区別して差別的な処遇をしたことの意味が理解できない。また、文部省の検定を経たにもかかわらず、本文中に ゅん 八九九年)を指すと思われるが、「反乱」という表現方誤りを含んだ教科書もある。『楽しく学ぶ社会』(帝国書院・I)の「アイヌの反乱」がそれである。「アイヌを保護する政治」とは「北海道旧土人保護法」の制定(一っしょう法もさることながら、その歴史的前提として「アイヌの反乱」が存在していたというのである。これまでのアイヌ史研究ではそのような近代の「アイヌの反乱」の事実は明らかになっていない。おそらく近世のシャクシャイン戦争などと混同したのであろう。早急に訂正すべきである。 『小学生の社会科』(中教出版・E)は一九八九年度版と比較して語順の入れ替え程度の改訂で、記述の基本構成には変化がない。『新版社会』(教育出版・H)の記述は一九八九年度版と同一である。このように『新しい社会』(東京書籍・C)を除いて、二、三行でアイヌ民族の棄民化問題を記述し、その因果関係も実に曖昧な教科書からはアイヌ民族の悲痛の叫びは聞き取れない。当然のことながら、子どもたちへのインパクトは弱く、アイヌ問題の解決を自分自身の課題として考えていくことにはつながらない。アイヌ民族の棄民化問題を単に北海道「開拓」政策と関連づけて捉えるだけでは不十分である。むしろ、それと一体となったア1049
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