いっぽうで、すでに述べたとおり、近代・現代をとおしてアイヌの人たちに和人に同化するよう圧力が加えられてきたこと、また自分たちの伝統をどのように受け継ぎどのように変えていくかについての自由な選択の幅が狭められてきたこと、さまざまなかたちでの差別が現在に至るまで続いてきたこと、は歴史的事実です。近代・現代のアイヌの歴史について触れる際にはこうしたことを避けて通ることはできません。8 アイヌ文化の地域差・時代差を、モデル的なものであっても、可能な限り理解させる。地域差を考えずにアイヌ文化の像を単純化し、あるいは時代差を無視して固定化することは、多数者である和人にとっては考えるべき範囲が狭くなるので「楽」なことになります。いっぽうアイヌ民族にとっては、その単純化された像に沿うことが求められるというかたちでの新たな抑圧になりかねません。またアイヌ文化内部での多様性を和人がイメージすることは、和人が自文化や自分の社会の内部での多様性を理解するためにも必要なことです。このことは、少数者を対等なものとして尊重し相互理解の上に立った社会の形成に将来結びつくでしょう。もちろん、すべての地域差・時代差、場合によっては な意思によって、また外からの圧力によって、または無個人差についての資料を収集しそれを記述することは、時間と紙数とをいくらでも費やすことになってしまうので、不可能です。現実には、個別の文化要素について多様性の具体的な例を示したうえで、あとはそれらをモデルとして「教科書に出てくる以外にもさまざまな地域差・個人差があり、また時間の流れのなかでも、自発的意識のうちに、文化はいろいろな変わりかたをするのだ」という考え方を提示するのが最大限になるかもしれません。こうしたことがらの教育方法についても、これから長い時間をかけて実践の経験が重ねられることを望みます。9 取り上げる。先住民族・少数民族・先住権などの概念について、1056第2部 教育 第9章 アイヌと教育
元のページ ../index.html#1072