報じた新聞記事である。一方で、一九五五年、道は、アイヌ民族の伝統的な儀礼の一つであるクマの霊送りについて、「生きたクマを公衆の面前に引き出して殺す」ものだとの理由を挙げて、その禁止を通達した。背景には、いわゆる動物愛護運動の高まりがあってのこととはいえ、この儀礼を「熊祭」と呼ぶ認識や、儀礼の担い手ではない多くの観衆が専ら好奇心から儀式の会場に押し寄せていた状態を「公衆の面前」ととらえる考え方など、その民族の伝統的な世界観への理解と尊敬を欠いた、一方的な通達であった。資料13①はその通達の本文であり、資料13②はこれを報じた新聞記事である。ここで「識者」として取り上げられている高倉新一郎のコメントは、実際に高倉がそのように語ったのかについては留保せねばならないが、「雰囲気だけでいい」といった言葉には、やはりその儀礼を営んできた人々への畏敬があるとは言い難い。なお、政府においてアイヌ民族を先住民族と認める動きが進められるに至った二〇〇六年、環境省は、アイヌ民族のクマの霊送り儀礼について、正当な理由をもって適切に行われるのであれば動物愛護管理法には抵触しない、との判断を示し、これを踏まえて道は二〇〇七年に資料13①の通達を撤回している。の調査・収集(録音)事業の計画である。同局は、一九四七~四八年にもアイヌの歌謡等の録音事業を実施している。道は、一九五〇年代から伝統文化の記録映像作成などには取り組んでいたが、継続的な記録・保存事業に取り組んだのは一九六二年に「アイヌ文化保存対策協議会」を設置してからのことで、この協議会のメンバーとして学識者を委嘱して聞き取り、録音、録画による調査を進め、一九七三年から道教育委員会が「アイヌ言語採録事業」などの調査・記録事業を実施するに至った。資料15は、この「アイヌ言語採録事業」の報告書として刊行された冊子の序文である。NHKの伝統音楽調査は、のちに同局による『アイヌ伝統音楽』(一九六五年)の刊行に、道による「アイヌ資料14は、日本放送協会(NHK)札幌中央放送局(現札幌放送局)が一九六一年に立てた、「アイヌ伝統音楽」220第1部 社会・文化 第4章 戦後社会の中のアイヌ民族の生活と文化
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