ご一族の方々である。同先生のご家庭には、ご尊父である故児玉作左衛門北海道大学医学部名誉教授収集のアイヌ民族資料(いわゆる児玉コレクション)が大切に保存されていた。児玉コレクションは、故児玉博士によって樺太千島をはじめ道内各地から収集されたものであり、地域的種類的にもバリエーションに富むきわめて価値の高いものばかりである。この資料の一部借り入れを、適切な整理・保存の措置を施す条件で同先生に願ったところ、幸いにして、同先生から格段のご配慮とご理解を賜わることができ、昭和五六年一二月に約九四〇点にのぼる貴重な資料が「借り入れ資料」として当財団に搬入されるに至った。この資料の借り入れと、さらに今年度内に予定されている第二次の借り入れによって、当財団の所蔵資料が一層充実したものとなり、アイヌの生活文化の態様をきめ細く表現するのに充分なだけの資料が整備されたことになる。博物館として様々な機能を展開していく上で、必要な資料の数には限界がないが、こうしてアイヌ民族文化専門の博物館にふさわしい〝中味〟を充実できたのも、児玉先生ご一族のお力に負うところが大だったのである。以上のような課題を克服したのち、事はきわめてスムーズに運んだ。後は事務上の手続を進め、さらに建築や展示の基本設計を具体的に煮つめ直し、それぞれの実施設計を組んで着工にこぎつけるまでの行程を消化していけばよいだけであったのである。最後に、ここに至るまで、厳しい財政状況にもかかわらず補助金を交付していただいた北海道並びに白老町、及び、ご迷惑をおかけしながらも常にご指導・ご協力を惜しみなく賜わった文化庁文化財保護部管理課並びに同無形文化民俗文化課、㈳日本博物館協会、道教育庁文化課、白老町教育委員会、道ウタリ協会、さらに事情により補助金交付は実現できなかったが、深いご理解をいただいた㈶日本船舶振興会、そして児玉マリ先生ご一族に対し無事着工に至ることができた経過の報告を兼ね、記して感謝の意を表する次第である。第3節 伝統文化の「保存」から「学習」「継承」へ265 ••
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