北海道現代史 資料編3(社会・文化・教育)
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石狩川洪水体験記〈一九八一年八月〉あの大洪水の中で牛が次から次へと流されて行く。悲鳴をあげて一生懸命流れに逆らって泳ごうとしているのだが。八月五日。とうとう堤防が決壊してしまった。父が深夜土のう積みから飛んで帰って来てこう言った。「あの堤防が破れるくらいだからどんなことになるか判らない。」体が濡れていたせいか声がなんとなく震えていた。それから何時間たっただろう。すでに排水溝があふれ水は納屋や牛舎に流れ込んでいた。緑色をしているはずの田んぼが白くそまって周る。「ゴー。」という音ととも一九八一年石狩川洪水(台風第一二・一五号)江別市教育研究会小・中国語部会『水害 体験作文集』一九八三年江北中三年 〔人 水害に一メートルくらいの高さの水が、すぐ近くまでせまってきていた。 「さあ大変だ。」と父は牛舎に飛び込んでいった。早いことにもう水はおしよせてしまったのである。すでに、牛舎の中には、父の腰まで水があった。小牛は顔だけ出し、アプアプしている。父の網を切ることの早かったこと。十八頭の牛々でわずか三十秒かかるかかからないか。とにかく水はどんどん増してきている。名〕  「さあ出ていけ。」父が大きな声で叫ぶと、牛たちは、一斉に飛び出した。「牛や馬は水を見ると動かない。」とよく言うが本当だろうか。走っているのか泳いでいるのか判らない。だがみんなひっしに前進しようとしているのは確かだ。すでに回りは、どこが何だか判らないほどの水があっ    作った堆肥も、山になって次から次へと流れていく。最た。ドラムカンや木材、まわりの物が流れ出した。春に初の牛が姿を見せた。もはや走っているのではないか。完全に泳いでいる。牛たちはみごとな泳ぎを見せてくれ51611 第1部 社会・文化 第7章 自然災害と防災(2) 

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