北海道現代史 資料編3(社会・文化・教育)
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けんだ。するとボスがこちらの方に向って泳ぎはじめた。518やはり最後は人間をたよるのだろう。しかし、どうしたことか、あとの牛たちがついてこない。それに気づいたボスは何をするかくるりと後を向き、上を向いたかと思うと、かん高いかすれた声を出したのである。彼にとってはあれが最高の泣き声なのだろう。だが、いったいなんのために、あんな泣き声を出したのだろう。ボスは泣き終えると、またこちらに向きをかえ泳ぎ出した。どうだろう。今度は他の牛たちもこちらへ向って泳ぎだした。そうだ、ボスは仲間のみんなに「ついてこい。」と命令したのだ。牛達はボスの言うことを聞き、流れに逆らって必死にこちらに向かっている。小牛たちも一生懸命、無我夢中で泳いでいる。着いた。とうとう僕達の所までたどりついたのだ。僕はすぐ何頭いるか数えた。十八頭だ。もう一度数えてみた。全部無事である。父も母も数えた。十八頭だ。やった。全部助かったのである。父のうれしそうな顔、母の今にも泣きだしそうな顔、僕もたまらなくくら泳ぎがたっしゃな人でも流されてしまうだろう。父は一頭の大きな牛を連れてこようとしている。動物  「アー。」とみんなはなさけないような声を出した。「この集団生活の中では、どんな動物でも必ず「ボス」がいるはずだ。とうぜんうちの牛の中にもボスがいる。父はそのボスだけをひっばってきた。するとどうだろう。その後を他の牛たちがゾロゾロついてきた。父はゆっくりボスをひっぱってきたが、途中足をさらわれそうになったのか、牛から手を離してしまった。父はしかたなく、僕達のいる方へ向ってきた。牛たちは流れにそって泳いでいるのだが、皮肉なことに流れが強く、家の前でとまらず、僕達の見ている前を通り過ぎてしまったのである。のまま流されていってしまうのではないか。」という不安が高まった。さいわい十メートルほど行って、用水路にひっかかり止まってくれた。だが、そのまま流されていってしまうのも時間の問題である。みんなで、こっちにくるように叫んだ。牛たちはそこでもぬかってしずんでいきそうである。もう声がかれるほど何度も何度もさ第1部 社会・文化 第7章 自然災害と防災

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