本章では、地域からの情報発信に焦点を当てて、その取組について見ていく。厳しい言論統制の下に置かれていた第二次世界大戦が終わると、人々の情報への欲求は一気に解き放たれる。ラジオの共同聴取の普及、地方紙や書籍・雑誌の発行が相次いだ。高度経済成長期に入りテレビの時代になると、難視聴解消のためのケーブルテレビ(CATV)の設置が進む。この時期には、市民運動の盛り上がりの中で社会運動系のミニコミ誌の発行が盛んになる。高度経済成長期が終えんし、地方への関心が高まると、地方での生活を基盤に置いたタウン誌やミニコミ誌の発行が相次ぐ。その後、規制緩和政策の一環として一九九二(平成四)年にコミュニティFM放送が認可され、道内各地で放送局開局の動きが活発化する。このように、時代状況の変化を受けて地域からの情報発信のあり方も変化していくが、一方では、北海道は広大であるという地理的条件とも密接な関係をもって展開してきている。なお、書籍・雑誌の出版に関しては、既に出版文化史としてまとめられた成果(文末の参考文献に掲載)があるので、以下では最小限の紹介にとどめる。北海道における有線放送は一九四三(昭和一八)年に始まり、戦後急速に普及していく。北海道では、聴取者で結成された任意団体や農協・漁協などの団体が経営主体となって広がった点に特徴がある。資料1は、『農業協同組合経営実務』に掲載された論文の一部で、有線放送施設の普及とその意義について触れられている。広大な土地に散在する北海道の農家にとって、ラジオの共同聴取に加え、農協、役場、警察、保健所などからの連絡放送を受信できたという点で、極めて大きな意味を持っていた。解 説 第一節 農村における有線放送607解 説
元のページ ../index.html#623