函館市内のほとんどの喫茶店が会員になって雑誌の発行を助けてくれていたが、今は、数えるくらいしかいない。喫茶店がなくなると街角では、文学の話も、芝居の話も、美術の話も、映画の話もきかれなくなった。そして、 映画館も減り、本屋も少なくなり、本屋があっても並べられている本の質が低下してきた。喫茶店というのは、そのまちの文化を表わしていたらしい。今も若者はいるけれど、今の若者は、どこに集まって、どんな話をしているのだろう。テレビの話だろうか。テレビは文化の質をすっかり変えた。テレビが変えたのはそれだけではない。庶民の生活もまったく変えた。大量生産する大企業の広告をながし、その販売を助けることで、地方のいいものを無くしてしまった。しかし、これも時代というものだろうか。函館の誇り得るものは、気候の良さと、異国風の歴史と、海産物だ。それを食べさせる鮨や和風レストランだ。五島軒は創業百十余年を誇る洋食の老舗で、これも函館人の誇りだ。うなぎの入川、立はいや、鯉之助も自慢で大河合商店の亡くなった清太郎さんがよく言ったものきる老舗だ。割烹の冨茂登、南のそばや、手打ちそばの久山田も自慢できる老舗である。こういう店がタウン誌「街」を支えてきた。だ。「どこへいっても、函館で喰うにぎりにまさるものはないね」と。そう、ここはまた旨い鮨を喰わせてくれるまちでもある。今は二代目が経営している清寿司の初代、清さんは、いわゆる小ジャリをにぎってくれながら、「にぎりのコツは、シャリをにぎるとき、ほんの少し空気をいれてめしを生かすことだ」と話してくれた。私は仕事で旅先から帰ると、さっそく行くのが鮨やである。カウンターに坐り、ネタのケースをのぞくと気持が落ち着くからだ。眺めているうちに食欲が湧き、最初ににぎって貰うのはトロか、ボタンエビである。にぎりは一コずついろんな種類の魚介類が食べられるから有りがたい。編集者の楽しみ、喜びとはなんだろうと、いまごろ考えるが、それはいいスポンサーがつくことと、今一つは、627第4節 郷土誌からタウン誌へ
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