北海道現代史 資料編3(社会・文化・教育)
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文学を云々するとき、個性といふものは勿論大切だが、その上のものがある筈である。地方色と云つても、やはりそれより大切なものがある筈である。中央の文学や文化を云ふのではない。たゞ文学や文化の底流として欲しいものは「誰にでも通ずるもの」である。それがどんなものか、ぼくは知らない。ぼくはそれをこれから求めやうとしてゐるのだからの上に立つ地方文学であり、地方文化でありたい。総明な未完成などといふ可怪しな言葉が出たのも、こんな普遍性を忘れたくない気持からである。地方文学の中に地方色とか個性とかと一緒に、普遍性と呼びならされてゐるものを求めることは、難しい理屈を幾つか重ね合せればうまく説明出来るだらうが、ぼくは苦手だし今迄も論じられてゐることだからここでは云ふまい。だが文学が幾分でも地方文化の推進力たり得るためにはその中に是非普遍性といふものが必要だと思ふのである。ともかく以上のやうな想ひが編輯中のぼくを捉ヘてゐ。「誰にでも通ずるもの」そたのだが、どうにか創刊号が出来て見れば、そんな理屈はどうでもいい、未熟は自ら認めて、これがぼくたちの実力だ。文学に何かを求める青年諸君の机上に贈る、貧しいけれどうちに意欲を潜めた一冊だ。最後に種々助力を頂いた方々に感謝すると共に、先輩諸兄の御教導を切望するものである。やうやく第一号発刊まで漕ぎつけた。これで充分―    ―  するよりは、むしろ、黙つて、大方の毀誉褒貶を素直にといふまでには、まだまだ道遠いだらうけれども、現在のわれわれの全能力(経済的な意味も合めて)を傾けてやつとこれだけである。恥づかしい気もするが、見れば分ることなのだから、いまさら弁解がましいことを云々北海道から札幌文學會『札幌文學』一号一九五〇年一月あとがき(公益財団法人北海道文学館・北海道立文学館所蔵)【吉柳】 第1部 社会・文化 第12章 美術・文学【文学】13 746

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