編集後記二年ほど前、北大文学部国文科大学院室で、近代文学専攻者による幾度目かの研究会が開かれ、評論と研究の間の問題が、これも何度目かの論議の対象となっていた。誰いうとなく、そのような問題意識に根ざした論文をのせる雑誌がほしい—やってみようじゃないかという机上プランが、火の気の絶えたうす暗い部屋に拡がった。プランは机上に置かれている間が美しい。今春、それを再度繰り展げて以来、夢と現実との接線は何度か引き直されねばならなかったけれども、ともかくこんな雑誌が生まれることとなった。内容について喋々することは、すでに我々の手を離れたことゆえ慎みたい。ただ当初の「位置」の会『位置』創刊号一九六二年一一月プランで、創刊号に陽の目をみなかった二つの点を書き添えて置こう。第一は文化一般に相渉たる北海道の特質の独自な分析を考えるものとしての風土性に関するエツセイであり、北海道にその歴史を生き抜いた人々による主体性ゆたかな回想である。第二の点として、我々の追及の目途が必らずしも風土にのみ局蹐するものではない証しとして海外文学の動向を背景とした変化ある作業であった。これらが不発に終ったことが、創刊の喜びを多少とも減じているけれどもいずれは日程にのせるつもりである。同じころ発刊の話が伝わり、本誌に先んじて創刊され びあがって来たことを、同学同志のものとして祝福したた「北海道文学」を見ても、北海道の文学に対する問題意識が、多彩かつ鮮明に、豊かな構想に裏づけられて浮い。資料の整備として実証的基礎なくして、いかなる見せかけの名論もむなしいことは自明の理である。そしてまたこの自明の理をむなしく繰り返すことも、逆にひたすら文献に安住することも、我々は厳しくみずからの実第二節 「北海道文学」へ理論化をめざして第1部 社会・文化 第12章 美術・文学【文学】15 750
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