北海道現代史 資料編3(社会・文化・教育)
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付与してしまう。ここに〈風土決定論〉に陥ったり、自然を地理、空間的からのみ規定してしまう偏向論にすりかわる構図をみてとれる。 〈北方という風土〉は、地理的空間に於いて、日本の中で、北方に位置している。歴史的営為の中で、この風土に住む民衆は、よりきびしい、歴史的試練の渦にのまれてゆく。〈開道百年〉の国策的百年に、この歴史的重圧に耐えきれず、自己の血を、〈和人〉という〈自由な名称〉にゆずり渡したアイヌの像が、まず存在する。〈前近代〉〈近代〉〈現代〉に於いても存続する〈流民〉の典型であるアイヌ異民族が、すぐに消えない苦悩を背負って生きている。いや、アイヌ人の被征服という屈従の歴史は、百年という尺度で計れないものだ。『アイヌの歴史―神と大地と猟人と』の著者である三好文夫は、〈開拓百年のそらぞらしさ〉という小文で〝北海道百年記念祝典〟について〝北海タイムス〟(昭和四十三年、九月三日付)の記事を引用しながら次の様にのべる。ものだった。〝北海道百年記念祝典〟と呼ばせはしたものの、結局は〝開拓権力百年祝典〟でしかなかったのだ。紫の道旗がひるがえり、二百十六の市町村旗をかすめ   殺の歴史、収奪の歴史をそれに対立させている。〈アイる中を、二人の青年は、エゾ開拓から百年、先人の苦闘の礎を踏んまえて、明るい二世紀へのステップを刻む。そして、ロイヤルボックスにお立ちの両陛下は熱い心にこたえて、力強く手を振る。これがだいたいの新聞の要約である。三好文夫は〝開拓権力百年祝典〟と叫び、圧ヌ〉が不在の、征服したものが勝利を祝う祝典でしかない。この虚偽の祭。そして私達の眼前には、〈百年記念塔〉が丁度百メートルの高さで、野幌の地に立っている。又数多くの開拓を祝う像、記念館が象徴として大地をふみしめ立っている。開拓記念館では、アイヌの住居が、だがそれは、はなはだ非歴史的な、そらぞらしい第1部 社会・文化 第12章 美術・文学【文学】754

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