先住民族の習俗として設置されている。私はこの〝住居〟の前に立つと、何かが胸につまる。この住居で生活しているアイヌの姿には、搾取され、抵抗の怒りもみじんにもたない、いわば〈人形〉のようなアイヌをみる。それが、これら歴史的経過が頭をよぎるときこの〈人形〉のアイヌが全くの〈虚像〉であることに気がつく。それが異物として胸につかえるものだろう。アイヌの受肉の現し身は、ここには不在だ。〈人形〉としての原型は、〈旧土人保護法〉(明治三十二年)に透射できる。第一条に於いて次の様に公的に宣言される。第一条 北海道旧土人ニシテ農業ニ従事スル者又ハ従事セムト欲スル者ニハ一戸ニ付土地一万五千坪以内ヲ限リ無償下付スルコトヲ得アイヌは〈旧土人〉なる差別対象となる。これは〈流民〉以上に厳烈な差別用語である。維新政府は、この法律の以前に、明治六年に、〈地租改正条令〉を発効し、アイヌの所有地=猟場を、一方的に〈御料地〉〈官有地〉として国有化を達成する。又明治十年、〈北海道地券条例〉によりさらに、徹底的強化が完成されてゆく。これらの〈悪法〉は単に〈悪法〉のみならず、〈搾取の法〉でもあり生の基盤の収奪により貧困と絶望の奈落の地獄へ、つきおとすものであった。勿論アイヌ狩猟法の唯一の武器であった毒矢は禁止されることになる。さて、〈旧土人保護法〉は、先の悪法により国有化した土地―(初めからアイヌ固有の土地であったもの)をなんと美しくも、無償で授与すると、高らかに宣言する。しかもこの国家から授与された〈土地〉は、石がごろごろころがった土地であり、その実際は、陰惨たるであった。同じく保護法の第七条、第九条から〈土人学校〉が、明治政府により一九〇一年設置される。これは、異民族たるアイヌを、日本民族として同化させ、遂いには、天皇制国家=明治国家の、忠実なる〈臣民〉として、天皇崇拝 をもくろむものである。民族的自覚さえ持てない、精神的自由さえも拒否され、第2節 「北海道文学」へ755
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