北海道現代史 資料編3(社会・文化・教育)
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みを進めている。また個別研究では、アイヌの小刀「マキリ」の鞘に彫り込まれた文様や、ドイツのユダヤ系銀行業者についての研究発表、東欧に伝わるイディッシュ民話を題材にした人形劇の研究と実演、そしてビデオによる海外旧ユダヤ人街の調査旅行報告など、そのすべてにおいて、発表者も会員も一体となってこれまで素晴らしい成果をあげてこられたように思う。一方、円の中心として考えてきた文化講座と同人誌『ブレーメン館』について言えば、講座の方はすでに年二回を達成し、会員同士の活発な話し合いによって、より固い結束が生まれてきている。そして、同人誌は一年の準備期間を経て今、創刊号刊行を迎えた。円周上の各研究会活動の凝縮としてこの同人誌は、紀行文やエッセイ、小説や評論などさまざまなジャンルにおよんでいるが、いずれも自分たちの豊かな生き方の創造という「ブレーメン館」本来の趣旨と必ずどこかで繋がっているはずである。これまで何度も、「ブレーメン館とは何ですか?」と聞かれる度に、あのグリム童話について語り、「現役を終えた動物たちが力を合わせて……」などと必死に説明してきたものだった。ところが蓋を開けてみれば、退職組はほんの一握りで、現に粉を挽く「驢馬」や、時を告げている「鶏」や、鼠をくわえている「猫」や、泥棒に向かって吠えまくっている「犬」といった現役のばりばりが圧倒的多数だった。とすれば、「ブレーメン館って何?」というあの問いに、どのように答えたらよいのだろうか。ともかく今、年齢を越え、性別を越えて、さらには特定の宗教・政治にもとらわれずに、自分の持てる力を十分に発揮する場として、「ブレーメン館」は歩み始めたのである。したがって、そこにはやはり、グリムのあの「ブレーメンの音楽隊」の、自由で豊かに生きる精神はしっかり受け継がれているのではないだろうか。(公益財団法人北海道文学館・北海道立文学館所蔵)(二〇〇三年六月)第1部 社会・文化 第12章 美術・文学【文学】  764

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